[工業] 配管の「呼び径」と呼ばれるものは一体何か

2014年3月20日

 配管のサイズ(=管径)は「呼び径」とか「呼称」と呼ばれるもので表します。たとえば、消防法施行規則には「主配管のうち、立上り管は、管の呼びで32ミリメートル以上のものとすること」という記述があります。また図面では「管の呼びで32ミリメートル」は「32A」と表記します。

 同様に「配管の摩擦損失計算の基準」でも「大きさの呼び A」という記述があります。
 配管の摩擦損失計算の基準
 配管の摩擦損失計算の基準(google 検索)

 この「呼び」とはなにか?「32A」と書くと一般には「32アンペア」で "A" は電流の単位ですが、この「32A」の "A" はどういう単位なのか?というのが以前から気になっていたので調べてみました。

 ・・・

 まず前述の「立上り管は、管の呼びで32ミリメートル以上のものとすること」の文脈から、菅の太さ(=径)を指しているのはわかります。それではどちらの径を指すのか。外径を指すのか、内径を指すのか。

 たとえば 32A の配管の外径は約 42.7mm であり 32mm ではありません。では内径か?というと、実はそうでもありません。
 32A の 圧力配管用炭素鋼鋼管(JIS G 3454) の内径は以下です。
  ・スケジュール 40 のとき 35.5mm (= 42.7mm - 3.6mm × 2)
  ・スケジュール 50 のとき 33.7mm (= 42.7mm - 4.5mm × 2)
  ・スケジュール 60 のとき 32.9mm (= 42.7mm - 4.9mm × 2)
  参考) JIS G 3454圧力配管用炭素鋼鋼管 で検索してみてください。
 スケジュール 60 のときに、もっとも 32mm に近づきますが、それでも完全には一致しません。(ちなみにスケジュールは配管の肉厚です。スケジュール番号が大きくなるほど、肉厚が厚くなります)
 また 32A は 1¼B でもありますが 1.25 インチ = 31.75mm なのでやはり一致しません。

 ・・・

 結論としては、呼び径は、管の"外径"寸法を表しています。
  http://ja.wikipedia.org/wiki/金属管#管の太さのあらわし方(円管)
 「呼び径は内径」と述べている WEB ページもいくつか検索にひっかかりますが、規格上はあくまで「外径」です。そして 350A(14B) 以上のインチ呼称では外径そのものです。(350A = 14B = 14インチ = 355.6mm = 外径)
 しかし、350A 未満の配管では「数値=外径」ではありません。

 なぜそんなことになっているかというと、鉄パイプの規格が元々はインチ管の内径をもとに決められていたことに由来します。
 かなり古い英国規格(BS 78)にその名残りを見ることができます。
  http://en.wikipedia.org/wiki/Cast_iron_pipe#Standardization
 上述の表だと、10 以下の呼び径(Nominal Size)は、クラス C の内径(Internal Diameter)と同じ数値です。呼び径が 12 以上になるとクラス D の内径と同じ数値になっています。つまり、この規格ができた頃は内径を基準にしていたと思われます。

 流体は管の中を流れるので、内径が基準となるのは自然です。しかし内径を固定すると肉厚(=耐えるべき管内圧によって変化する)によって外径が変わってしまいます。外径が変わると支持金具等の寸法が変わってしまい施工的には不便です。呼び径が同じ値=外径が同じ、としたほうが施工的には便利です。(この方針は、前述の BS 78 ですでに表れています)このため、呼び径と内径が一致しなくなります。
 その後時代が下り、同じ外径で同じ菅内圧に耐えられるパイプが、より薄い肉厚でが作られるようになっていったことで、呼び径と内径の乖離がさらに大きくなっていきます。

 ・・・

 加えて、もともとは管の径はインチで呼称していましたが、それまでインチ呼称だった管をミリメートル呼称でも呼ぶようになります。このため、インチの呼びには「B」を、ミリメートルでの呼びには「A」を付けて区別するようになります。
 とはいえ A 呼称と B 呼称は、ミリメートル - インチ変換の単位変換では求められない点に注意です。たとえば、1インチ=25.4mm ですが、1B = 25A / 2B = 50A となり xB = x*25.4A ではありません。また 3B = 80A なので xB = x*25A ですらありません。

 なぜインチ基準の配管をわざわざミリメートル表示にしているかというと、メートル法への批准が理由みたいです。(計量法による規制)
 しかし、継手については 「呼び径(A)を継手の大きさを呼ぶのに用いないほうがよい」(JIS B 2301)とあり、必ずしもミリメートル呼称でなくてはならないということでもないようで、本当に計量法の関係で A 呼称が生まれたのかどうかについては確認できませんでした。
(継手がインチ表示のままなのは「継手を作るための鋳型にインチ表示が含まれており、それを変更するのは現実的でないから」という説があるようです。しかし、こちらの真偽も確認できていません)

 ・・・

 ということで、まとめると以下。

  • 呼び径は外径を指します。(=呼び径が一緒なら外径が一緒) (*1)(*2)
  • 歴史的な経緯から "細い配管では" 外径より内径に近い数値で表示されています。しかし、近いだけで実内径とは一致しませんし、厳密には内径との関連はありません。
  • また「32A」と書かれても、それがサイズの数値(=「32」)と単位(=「A」)を表すものではなく、「32A」あるいは「呼びAで32」とかで一つの規格を指しています。したがって、たとえば「33A」というサイズの配管は存在しません。

 (*1) JIS配管(JIS B 2001)と ANSI配管(ASME/ANSI B36.19)とでは、おなじ呼び径でも外径が異なるものが多い。
 (*2) ½B は 13A でもあり 15A でもあるらしく、½B(よんぶ=4/8の意)と呼ぶと文脈によって、サイズが違ったりするらしい。






カテゴリー: 与太話, 工学

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3 Comments to "[工業] 配管の「呼び径」と呼ばれるものは一体何か"

  1. 杉本

    初めまして。私大和鋼管工業 企画室の杉本と申します。
    こちらのサイトを今回8/23配信の弊社メールマガジンに参考文献として載せさせていただきたいと思い連絡させていただきました。

    何かご不都合等ございましたらお手数ですがご連絡いただければ幸いです。
    宜しくお願い申し上げます。

  2. ooltcloud

    紹介していただくのは一向にかまいませんが、この記事は素人の調査結果であり、誤解もあるかと思います。その点をご留意いただければ幸いです。

  3. ooltcloud

    > 謎が謎を呼ぶ鋼管の規格と呼称。何故単管パイプの外径はキリの悪い48.6mmでインチ半と呼ばれるのか・・・?
    > https://www.daiwast.co.jp/blog/48.6_tankanpipu_gaikei

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