[与太] 想定外ってなんだ?

2011年5月5日

 最近、想定外なんてありえない、的な話をよく聞く。「想定外を言い訳にするな」とか「想定されていないわけがない」とかそういう使われ方をしている模様。個人的には、この意見の意図するところが理解できなかったので少し考えてみたところ、「想定」という語のとらえ方に違いがあるのでは?という結論に達した。

 つまり、「想定」という語に2つの意味が込められていると予想。1つは「"起こり得る可能性があるかどうか"を少なくとも思いつくことができたか」、もう一つは「設備の設計として、どこまでを耐えるものとしたか」だ。便宜上、前者を「可能性想定」、後者を「設備想定」と呼称することにする。(学術的に正確な語があったらすみません)

 おそらく、「想定外の事態」と述べる人は設備想定を指して述べており、「想定されていないわけがない」と述べる人は可能性想定を指して述べているのではと。だとしたら、話がかみ合うわけがない。

 …ところで、設備想定は現実に実現可能な(特にコストに縛られて)決定される。したがって、可能性想定はされているから、可能性想定のすべてが設備想定に反映されていてしかるべき、という意見はあまり意味を持たないと思う。

 たとえば、自宅でサーバーをたて、24時間運転したいとする。最初に脅威に思うのは(バグとかネットワークとかを除けば)電源だ。停電したら即困ってしまう。なので、最近は家電量販店にも UPS なる無停電電源装置が売られているので、これで停電に備えようと考えたとする。すると問題は解決するか?

 実は解決しない。問題を電源関係に限定したとしても。
 なぜならば、UPS 自体が故障することがありうるから。現実に、1次側の給電は正常なのに2次側の給電がされなくなるというトラブルはありうるし、事実よくある。また、電源装置(ATX電源とか)そのものが故障する可能性がある。電源装置は、ハードディスク等の回転機系に次いで壊れやすい。
 これに対応するにはどうするか。よくやるのは、電源が二重化されているサーバーを購入し、その片側を商用電源に直につなぎ、片側を UPS につなぐ。そうすると、UPS が故障のしたとき、商用電源は生きているから停電しない。商用電源が停電した時は UPS が給電し、電源装置が片側故障しても、もう片側が受電する。

 それではこれで万全か、というとそうでもない。UPS の電源容量は限られているから停電が長期になった場合には対応できない。それではどうするか、たとえば自家用発電機を用意したりする。もちろん自家用発電機も発電能力に限界があるから、継続して燃料を供給する必要がある。ということは、燃料の輸送経路や輸送手段の確保も必要だ。それ以前にサーバーの置き場が火事(全焼事故)になったらどうするのか、その場合は別の建屋にバックアップサーバーを用意する必要が出てくる。では大規模災害が発生した時には?バックアップサーバーは別の遠い土地へ用意する必要が…

 可能性想定を追い求めればこのループはまだまだ続く。もっとも上述程度であれば最近はレンタルサーバーだのクラウドサービスなどがあって、それなりに安価に対応できたりするが、要は可能性想定を突き詰めていけば、きりがないのだ。そもそも自宅でサーバーを立てようとして、電源の信頼性を高めようとしただけなのに、可能性想定を追い求めてしまうと、その時点で発散して収束することがない。

 個人のサーバーにそこまでの可用性が必要なのか?という指摘は至極全うだが、しかし詰まる所企業レベルでも国家レベルでも問題は変わらない。なぜならば可能性想定をすべて満足する実現可能な解などありえないからだ。結局、可能性想定のどこかまでを対策として設備に反映するよりほかに方法がない。もちろんそれは議論してしかるべきだ。だから、「UPSが壊れることを(設備)想定に入れると、サーバーの価格が高価になり購入できない(あるいは損益分岐を超えてしまう)。なので、UPSの稼働は前提とし、あくまで商用電源の瞬停のみをフォローする」というのは一つの判断だ。しかし、その結果 UPS が壊れたり、建屋が火事になってサービス停止した時、設備屋として述べられることは、その可能性について想定していたとしても「想定外の事態」と述べる他ないわけだ。

 したがって、設備屋は、なぜそれが設備想定外とされたのか?いう話や、今後設備想定に入れるべきかどうかという話題には対応できるかもしれないが、「想定外なんてありえない」とか責められても答えようがないと思う次第。






カテゴリー: 与太話

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